行政改革
ラオスにおいても1986年以来「行政改革」が進められています。ただ日本における行政改革とは異なり、ラオスの行政改革は市場経済に適合する行政機構を構築すること、中央と地方の行政機関における良好な関係を築きあげること、またそれらを効果的効率的に運営していく有能な公務員を育成すること、が目標とされています。NEM政策の導入とそれに伴う社会経済改革を推進していくためには、強力な行政機構の再構築と優秀な人材を育成する必要があったからです。その最も大きなステップであった1991年憲法が制定され、行政機構の刷新が行われると、まず公務員の資質向上・能力開発を推進する機関として、国立行政管理学院(NSAM)が設立されました。また1992年には、行政改革に関する全ての業務の調整を行う機関として、首相府に行政公務員局(DACS)が設置されました。 |
首相府行政局及び国立行政管理学院 |
首相府行政局
首相府は政府機構の中核的役割を担う組織として活動し、政府のあらゆる業務に関する調整を行うほか、統一的な国家運営を行うために政府の事業や業務に関する研究をし、助言を行います。
首相府の組織は、首相府官房・部・部と同格の組織及び首相直轄の局から成り立っています。現在、サイソンポーン・ポムウィハーン官房大臣の下に5つの内部部局が設置されており、さらに5人の首相府付大臣と、9つの付属機関が設置されています。中でも首相直轄下に置かれている行政局は、中央・地方に係る行政制度全体を所管する機関となっています。この行政局は当初「行政公務員局」として首相府に設置され、行政制度と公務員制度の両方を管轄していました。しかし1997年に公務員に関する業務がラオス人民革命党中央組織人事委員会へ移管されたため、現在は行政局(DPA)と改称され、UNDPの支援を受けたGPARの事務局として行政機構の体系的整備に取り組んでいます。組織としては局長の下に2名の副局長が置かれており、総務・中央行政・地方行政・行政制度開発を担当する4つの課から成っています。 |
ラオスにも内務省が置かれていますが、地方行政ではなく国内の治安確保に関する業務を行う省であり、主に出入国管理及び警察業務を担っている。 |
国立行政管理学院
国立行政管理学院は、中央及び地方の上級公務員を対象にした研修機関として1991年に設立されました。その組織には行政法学部・経済経営管理学部・外国語情報コンピュータ学部・総務部があります。
副大臣や知事、副知事、局長、部長等の上級公務員の能力向上を図るコース(3〜15日間の短期コース及び10ヶ月間の中期コース)と、若手職員に対する管理職養成コース(1年間の長期コース)を基本に、これまでにも多くのコースが開設されています。研修内容は、行政法・民法・行政・経済・会計・財務・人的資源・農業開発・事業管理・銀行・マーケティング・外交・社会福祉・都市計画・語学など、多岐にわたる分野から必要に応じたテーマがとりあげられています。
研修対象者の選定は、中央及び各地方レベルの党組織人事委員会と首相府行政局が担当しています。研修中の受講者はNSAMの寮に宿泊し、通常の給与が規定額通り家族に対し支払われるうえに、国からは受講者に対し研修手当が支給されています。講師はラオス政府の現役公務員の他、日本やフランス、ドイツといった国々から派遣されています。現在NSAMを所管している国立政治行政研究所(NOSPA)には、主に党員に対し研修を行い、その政策立案能力の向上を図る研修を実施する国立政治学院(NSPS)が設置されています。 |
行政改革事業
行政改革の初期の達成目標としては、公務員制度改革、政府組織の見直し、中央及び地方の関係整備、人材開発の4つが設定されました。
1992年、肥大化した公務員数の削減を図るため公務員勧奨退職事業が実施され、25%の削減に成功しました。
1993年には人事管理基本法である首相令第171号、第172号、第173号と、公務員社会保障制度を設立する首相令第178号が整備され、その実施が進められました。またUNDPの財務的、人的、技術的支援を受けた第一期事業「PAR(1994〜1996年)」が公表され、DACSが中心となって包括的な行政改革を開始することとなりました。
1994年には初めての公務員センサスが実施され、公務員数及び職務内容にかかる現状が把握されるとともに、その結果を活用するコンピュータ情報システムの整備が開始されました。
政府組織の見直しについては、そのPAR事業の一環としてそれまでほとんど把握されていなかった省の組織や業務内容に関し膨大な調査と分析が行われ、それぞれの業務や権能にかかる定義付けが試みられるとともに、PARにおいてパイロット事業に認定された省については、その組織人事部局の設立整備が行われました。
中央と地方の関係整備については、1991年憲法が打ち出した中央管理体制の実現に向けて、中央の省がその地方出先事務所の人事管理・企画立案・予算策定にかかる権限の掌握を図るとともに、党も「決議21」を発布して、中央と地方の関係と役割分担の明示を試みています。
さらに人材開発の分野においても、NEM政策の導入にあたり新たな知識やスキルが要求され始めた公務員に対して、職種別・役職別に多種多様にわたる研修が実施されました。
こうした行政改革の初期段階における一定の成果は、その後も引き続き包括的・戦略的・長期的な行政改革を実施する必要性を、党や政府に認識させることとなりました。 |
政治行政改革事業
初期の成果を受けて、党の行政改革に対する積極的姿勢が明らかにされるとともに、ラオス政府もUNDPの支援を受けた第2期事業「GPAR(1997年〜1999年)」を開始しました。第1期事業に継続して政府組織の整備と人事管理機能の強化を図りつつ、地方行政の業務拡大と財務管理機能の強化、さらに法治行政の実現に向けてその他の公共業務における法制度の整備に着手しています。
こうした行政改革の全過程を監督し国家社会経済改革との正しい連動を指導する最高機関として、首相令第98号(1997年8月28日)により「政治行政改革指導委員会(LCPAR)」が設立されました。委員会はトンシーン・タマヴォーン議長(党組織人事委員会議長、党政治局員)を長とし、そのメンバーは、首相府官房大臣、党組織人事委員会副議長、大蔵大臣、法務大臣、国立政治行政研究所所長、首相府行政局局長等により構成されています。またこの委員会の常務事務局は首相府行政局に置かれています。この委員会の任務及び権限は、首相への業務報告、行政改革事業にかかる戦略設定と全体指導、行政改革事業にかかる優先事項及び事業実施順位の決定、事業の実施に対する監督となっており、全ての行政改革事業はこの指導委員会で審議され、承認されなければならないとされています。
1998年7月には、首相令第143号により第6期党大会(1996年3月)の国家改革にかかる決議に基づく組織として、「政府組織改善委員会(CGOI)」が新たに設けられました。委員会はシーサワート・ケーオブンパン議長(首相)を長とし、そのメンバーは副首相、首相府の長、党中央委員会副議長、党中央査問委員会副議長により構成されています。その下には首相府官房大臣以下全8名の上級公務員からなる事務局が置かれ、事務局は閣僚や省にかかる組織機構のあり方を検証する権限が与えられています。省レベルにおいても、大臣、副大臣で構成される省レベル組織改善委員会が置かれ、本省組織及び州、郡の地方出先事務所の組織改善を直接的、包括的に行う権限が与えられています。また州レベルにも知事、副知事で構成される州レベル組織改善委員会が設置され、中央の省が実施する出先事務所の組織改善との調整のもとに、州から村にいたるそれぞれのレベルにおいて、同一レベル相互の組織機構の改善を行う権限が与えられています。
CGOIの任務はその他にも、国家運営及び人事にかかる法律、制度、手続の研究と改善、省や中央における政府機関の組織及び業務の研究及び改善、政府機構の改善を図る省や政府機関の権限及び組織の委譲に関する決定、組織、人事にかかる政府組織全体の改善を図るため、党中央組織人事委員会、国家憲法改正委員会及び省レベル組織改善委員会と協力することとされています。 |
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参考資料と引用:日本国外務省 (財)自治体国際化協会 |